3年め弁護士のひとりごと

弁護士村山世志彦の日記です。多少肩の力抜きつつ,弁護士業界のありふれたこととかオフの出来事を書いていこうと思っています。

【振り返る①】登記引取請求訴訟

弁護士になってはや3年めに突入。

 

振り返ると本当、妙に変な事件が多かったなぁという感慨がある。
それを扱っていた当時は、いかに抽象化するにせよブログに載せる気にはならなかったが、もはや当時得た知識すら忘れかかっている今となっては、自分にとっても、復習の意味があるかもしれないなどとも思う。

 

というわけで、これから気が向いた時に、昔扱った分野の知識なんかを整理した記事なんかも書いていきたいと思う。

もちろん個別的な事情には触れません。

 

 

 

今日はその第1回:

登記引取請求訴訟。

 

これ、弁護士になって最初の事務所に入った一番最初に割り振られた事件の一つで、思い出深いものがありますね。振られた瞬間「何だその事件…」と思ったことも含めて。

 

内容・背景
要するに、「あなたの所有している不動産、登記が別人名義になってるから、きちんと登記を引き取れ」という請求をするもの。
普通に考えて、不動産を所有している場合に登記=対抗要件がなくて困るのは所有者本人なので、第三者が請求しないと登記を引き取らないというのは、例外的な状況である。
この例外的状況をもたらすのは、登記を引き取ることに伴う負担であり、具体的には、固定資産税・都市計画税(土地工作物責任を登記名義人にも認める見解に立つ場合は同責任も含まれ得る。ただ、実例あるのかな…。)。
つまり、不動産についての課税は登記に紐づいて行われるため、不動産所有者が敢えて登記を引き取らず、公租公課の負担を第三者に押し付けていることがある。
ここに、登記引取請求を認めるべき必要性がある。

 

判例・関連条文・法的性質・要件事実
古くは、同訴訟類型が認められることについて必ずしも判然としていなかったようだが、
昭和36年最高裁判決(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53624
によってこれが認められた。
ただ、その法的性質については、債権的登記請求権と把握するか物権変動的登記請求権と把握するかで説が分かれており、どちらに依拠するかで請求原因事実が異なる。
債権的登記請求権だとするなら、例えば売買契約により被告に所有権が移っているなら、同売買の事実のみを摘示すれば良い。
他方、物権変動的登記請求権と把握する場合、同請求権が実態と登記が乖離していることを問題として認められるものである以上、被告所有に加え、他人名義の登記の存在も摘示する必要があることになる。
また、法的性質の理解は、よって書きにも影響する。
私が同訴訟を提起したときは、多少改変したものだが、
「よって、原告は、被告に対し、本件判決に基づき、又は本件判決に基づき発生した、被告の、所有権移転登記請求権に付随する登記手続協力義務の履行として、被告の別紙物件目録記載の●●について,平成●年●月●日●●を原因とする原告から被告への所有権移転登記手続をすることを求める。」
などと書いた。
今考えれば、又は以下は単に「又は物権変動的登記請求として」とした方が無難だったな。

 

注意点:訴額
他の不動産関係訴訟の場合、当該不動産の固定資産評価額の合計額が訴額となる。また、そのため、固定資産評価証明書を附属書類として提出する。
しかし、登記引取請求訴訟の場合、訴訟提起時1年分の当該不動産の固定資産税額が訴額となる。また、そのため、同年度の公租公課証明書を附属書類として提出する必要がある。
実は私、この点をミスってしまって書記官から指摘をもらい、後から公租公課証明を取り付け、手数料還付申請で対応した。
そういえば面倒くさかったな…

 

関連事項:登記給付を命じる判決が先行する場合について
さて、登記引取請求訴訟を提起して勝訴すれば、当然、それに基づいて単独登記を実現できる。不登法63条1項類推。

不登法63条(判決による登記等)1項
:第60条、第65条又は第89条第1項(同条第2項(第95条第2項において準用する場合を含む。)及び第95条第2項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。

ところで、登記引取請求訴訟(以下「本訴」)を提起する場合、当然、本訴被告Yが当該不動産の所有権を取得した原因がある。
そしてその中には、例えば既に一度訴訟(以下「前訴」)に発展し、本訴原告Xが本訴被告Yに対し売買等を原因とする登記移転手続をすべきことを命じる判決が存在する場合もある。
つまり、一度、YがX相手に登記請求訴訟をして勝訴したにもかかわらず、一転、Yが登記引取を拒んでいるという場合である。
んなこと本当にあるんかいなという話だが、実際、本当にあるわけで、僕が担当したのは正にそれに近い事案だった(微妙には違います。)。

さてさて、この場合に、果たしてXは本当に登記引取請求訴訟を提起しないと登記を引き取らせられないのか?という点は問題になる。というか僕が疑問に思いました。つか多分、僕と同じ立場になれば法曹ならほぼ皆さん「ん?」って思うと思います。
つまり、

「Xの手元には既に、自分に対して移転登記手続をせよと命じた判決(広くは債務名義)がある。よって、それを登記所に持って行って、
 『こういう判決(債務名義)があるのだが、先方が一転、判決(債務名義)に基づく手続をしない、つまりは登記を引き取らない。よって、俺の方で手続をしたい。』
 と言えばいいのではないか。
 手続遂行者が違うだけで、求める結果は同じであり、そのために必要な債務名義もあるのだから、それでいいのではないか?
 むしろ、この場合になぜ、Xが、登記引取請求訴訟を提起する負担を負わねばならんのか?無駄ではないのか?」

という話である。

少なくとも実質的に考えれば、僕は無駄だと思う。

当事者からすれば

裁判所、既に一回俺に登記給付を命じたくせに、なんであっちに引き取らせるのに別の訴訟が要るんだよ?

って話ですし、法律論的には、

  • 上記昭和36年判決は、前記昭和36年最高裁判決は,「真実の権利関係に合致しない登記があるときは、その登記の当事者の一方は他の当事者に対し、いずれも登記をして真実に合致せしめることを内容とする登記請求権を有するとともに、他の当事者は右登記請求に応じて登記を真実に合致せしめることに協力する義務を負うものというべきである。」と述べている。
  • すなわち、2人の当事者は双方ともに義務を負うのであり、移転登記を受ける側といえど、いわばその権利に不可避的に随伴する形で、登記手続に協力する義務を負うものと理解されている。これは、不登法において「登記義務者」「登記権利者」という呼称が廃止された趣旨にも合致する。
  • したがって、移転登記手続を命じる判決があるなら、前訴原告は、上記昭和36年判決が言う「登記を真実に合致せしめることに協力する義務を負」っていることが明らかである。
  • 要するに、前訴判決(債務名義)があれば、前訴原告に登記引取義務があること及び同義務の内容は必然的かつ一義的に導かれる。よって、前訴被告による登記手続を否定すべき理由は何もない。
  • 一方で、これを認めるべき必要性が存在する(だって認めないと二度手間だもん。)。

から。
ただ、登記実務はそうなっていない。理由は、

「前訴判決によって、確かに、前訴被告(上記X)の給付意思は擬制される。しかし、前訴原告(上記Y)の引取意思までは、これを読み出すことができない。」

というもの。
なお、雑誌『登記研究』にこの見解が出ているのだが、事務所移籍に伴ってバックナンバーの記録を喪失してしまった。もっとも、ごくごく簡単な記事で、理由付けは上記のことがアッサリ書かれてただけの記憶。

 

前訴判決をもってXがYに登記を引き取らせることを望んだとして、その法的根拠(使える条文)は、不登法63Ⅰ類推しかない。
そして、登記実務は、

  • 不登法63Ⅰは、あくまで、確定判決により意思表示の擬制がなされたことを正当化根拠とする。
  • そして、意思表示の擬制を定めた民執法174Ⅰ本文の規定は以下のとおり。

「意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し…たときは、債務者は、その確定…の時に意思表示をしたものとみなす。」

  • 上記規定の文言解釈として、前訴被告に登記給付を命ずる判決によって前訴原告の引取意思まで擬制されると解するのは無理がある。
  • したがって、類推の基礎を欠く。

という論理なんだろうな多分。
しかし、登記引取請求の法的性質を物権変動的登記請求権と解するなら、要するにそれは、「登記と実態が合致してないから修正請求が認められる」という多少公益的/公共的なものなわけで。
そうだとすれば、そこに、意思表示の擬制とは別の正当化根拠を見出すことができるんでないの?とも思う。

ただ、これを言い出すと、「じゃあ債務名義が判決じゃなくて和解調書だった場合に、条項の文言が微妙だったらどうすんだ?」とかって話に発展するのかな。

 

なお、以上が裁判上問題になることは、実際上は考え難い。
なぜなら、これは、「前訴判決を法務局に持って行っても門前払いを食らう」という話であり、これを変えようと思ったら行政を相手に訴訟する必要があるから。
登記引取請求訴訟よりはるかにウルトラ面倒くさい話であり、依頼者納得するわけないから。
非常に悔しい話である。

いや、悔しかったですよ。僕実際門前払いされたわけですからね。

 

前訴被告自身がブル弁なんてことがあったら、半分私怨・半分学問的興味で、やってくれんかな。

貴庁は当職の訴訟に耐えられるかな?とか言って。